2023年下半期に読んだ良かった本

published: 2023-12-30

荒野のおおかみ

国語の教科書に載っていた『少年の日の思い出』の著者であるヘルマン・ヘッセの作品。 少年の日の思い出を読んだときは重苦しい話だなと思った記憶があるが、荒野のおおかみは自殺がテーマで1000倍重たい話。 柔らかい文体で主人公ハリー・ハラーの社会との相容れなさが容赦なく描かれている。

実際、もし世の中が正しいとするならば、カフェーの音楽や、大衆娯楽や、あんなに安直なものに満足しているアメリカ的な人間が正しいとするならば、私はまちがっており、気が狂っている。

というフレーズが深く心に刺さった。

自身のもつ価値観が社会一般の価値観と相容れない苦しみに深く共感できたし、「ユーモア」という救いにも触れられていた。 この世界の苦しみを緩和する術がユーモアというのはいまだ腑に落ちていないが、このような素晴らしい作品を作る作者が辿り着いたものであるならばそれなりに信頼できるし、希望の存在というのはそれだけで救いになりえる。

宇多田ヒカルの『荒野の狼』も併せて聴きたい。

気分障害のハードコア

精神科医である内海健先生が自身の臨床経験をもとに気分障害について記した本。

私にとって気分障害の存在は反出生主義を肯定する材料の一つである。 どんなに幸福でも一歩間違えて気が狂ってしまえばその後の人生がすべて苦しみに塗れたものになるのは恐ろしいことだ。 そんな気分障害と向き合い続ける臨床医師が、病をどのようなものとして捉えているのかがわかる。 精神分析やメタサイコロジーといったフロイトに端を発する考え方について初めて触れ、気分、感情、意思といったものの捉え方は多種多様なのだなと思えた。

また精神科医の神田橋先生の言葉として「気分屋的生き方をすると気分が安定する」が紹介されていた。 全く理解しきれていないが、これも一つの希望の存在として救いになり得る言葉だと思った。

私は命の縷々々々々々

異常論文で『空間把握能力の欠如による次元拡張レウム語の再解釈およびその完全な言語的対称性』を書いた青島もうじき先生の作品。

読書体験のノイズになるのでおおまかな居住地以外のパーソナルな情報はなるべく出さないようにしているのだけど、『私は命の縷々々々々々』ばかりは「いわゆるZ世代の書き手が反出生主義を扱った作品」として読んでも面白いと思うので公にしておきます

@Aojima__

ということで反出生がテーマになっている。 タイトルの縷々々々々々からも苦しみを生み出す命が延々と紡がれている様子が感じられる。

生命が連綿と続いていくことへのやるせなさ、無情さが描かれているが、重苦しくない独特の読書感がある。 作中に『重力と恩寵』とよく似た作品が登場するのでこれを先に読んでおくとより楽しめるかも。

プログラミングHaskell 第2版

関数型プログラミングの代表的な言語であるHaskellの入門書。 最近ではいろんな言語で関数型言語の要素が輸入されているので教養としていいかなと思って読んだ。

Haskellに多少触れたことでRubyのリターン省略やPythonのリスト内包表現の合理性に気づけたのはよかった。 慣れない言語に触れたときのなんだこれ!という感情は無知からくるものだった。

特にカリー化はJavaScriptと非常に相性が良いのでどんどん使っていきたいと思った。